2025/09/22
9月8日(月)、主催講座10「北海道の宇宙産業とその未来」の第1回目は、宇宙関連企業の見学学習を開催しました。受講者は30名でした。
見学先の企業は、札幌市西区に本社があるletara㈱。該社は日本有数の宇宙推進研究センターである北海道大学宇宙システム研究室のエンジニアによって2020年に設立されたスタートアップ企業(※スタートアップ企業とは、革新的なアイデアで事業を展開し、操業から数年程度で急成長を目指す企業のこと)。
今回訪問したのは滝川市江部乙にある該社の研究開発施設で、この施設は昨年12月、廃校になった江部乙中学校を該社が買い取り改修を行い「Polaris(ポラリス)」と命名して活用しています。
受講者は、施設内で該社の平井翔大Co-CEOから企業概況について説明を受けたのち、施設内の振動試験室などを見学、夢を抱き新たな宇宙産業に挑戦する若き企業の戦略について見聞を広めました。
以下は、平井Co-CEOから説明があった会社概況についての要点です。
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〇当社は、北海道大学で開発中である小型衛星用のハイブリッド推進技術を事業化するために、北海道大学大学院工学研究院宇宙環境システム工学研究室のメンバーによって2020年に設立し5年が経つ。私と米国人のランドン・ケンプスさんの2名で共同代表を務め、社員は70名ほど。アルバイトを含め総勢100名ほどが仕事に従事。このうち3分1が外国籍。
〇国のスタートアップ事業に認定され、投資会社や多くの企業、補助金を頂いた自治体・団体、国の機関と連携しながら事業展開を行っている。 〇会社の目指すビジョンとしては、現状、宇宙開発が進む中、安全の意識がまだまだであり、安全で人間が時間軸で動くようなロケットエンジンの開発が
目標。 〇当社の経営層は5名。このうち日本人は私を含め3名で残り2名は米国人。 〇当社は宇宙機用のエンジンを開発しているが、人工衛星に取り付けるエンジンの開発がメイン。宇宙機には色々なニーズがある。地球から宇宙に行くための打ち上げロケットのほか打ち上ったあとに人工衛星自体が別なところに移動するというニーズもある。最近では宇宙ゴミの問題があり、ごみを避ける移動のニーズもある。近年、人工衛星が増加しており、耐用年数はかつて30年ほどの寿命であったが、5年程にして使い終わったら地球に戻し大気圏で燃え尽きるような設計とする法規制の動きがあるなかで寿命が来た時に短期間で軌道離脱できるようにするとのニーズも出てきている。
〇これらは以前も対応出来てはいたが、材料は可燃性や毒性のある危険なものが使われ事故も多かった。幸い宇宙開発段階などでの人身事故は多くはないが、設備が壊れるなど損害が国内外で起きていたことからそうした危険性をなくすというのが当社の開発目標である。
〇当社では固体のプラスチックを燃料として液体の酸化剤と組み合わせ推進力を得るというハイブリット推進を採用している。
〇プラスチック使用により安全で低コスト。これまでの開発でも設備を吹き飛ぶような事故は起きていない。 〇宇宙空間で使用する人工衛星用の推進器であるため、この方法は真空・無重力の特殊環境下でしかも電力にも制限があるなかで技術的なハードルが高い。当社では①低電力で点火させるか(点火の技術)②いかに小さく大きく出来るか(設計の技術)③発生する熱の冷却(冷却の技術)という3つの技術でハイブリッド推進エンジンが出来上がっている。
〇当社では地上における真空状態での試験結果を踏まえて来年、宇宙に打ち上げ実証試験を行う計画である。 〇地上から宇宙に行くために重要な大きなロケットエンジンの製造ニーズもあり開発中。
〇当社の事業は、主に市場から部品を調達、一部は自ら設計した部品を加工製造してもらい当社で組み立てたうえ、試験を行い、品質保証したうえで人工衛星やロケットを製造する会社に納品する形がメイン。来年以降、たくさんのエンジンを製造していく事業化を図っていく計画。
〇なぜ北海道かとよく言われる。北海道大学は敷地も広くロケットエンジンの開発に適している。北大敷地内での開発・実験は出来たが、事業化には大学卒業後の拠点が必要だった。その時、宇宙開発をしようという企業やスタートアップ北海道等の団体との連携を進める中で支援の輪が拡がり、昨年、広大な土地があり長い間提携協力関係にあった赤平市に本社がある植松電機さんの会社に至近なこの江部乙中学校の跡を改修し研究施設の拠点とした。
〇北海道から道外への優秀な人材流出が課題となるなか、北大工学研究院の卒業生の9割が道外に就職する。自らが会社を設立し優秀な人材が北海道に留まって活躍できる機会を創出することも当社のミッションと考えている。
〇社名のレタラは北海道に因んだアイヌ語から選んだ。「真っ白」という意味であるが、ゼロから作り上げるとの強い思いがある。
【受講者の声】
「個人では決して見学をしたり説明を受ける機会のない宇宙産業施設。若々しい社長さん、担当者の方々の親しみの感じられる説明。貴重な経験でした。印象深く、今後、テレビ、新聞等で話題になるたびに今日の見学を思い出すと思います」
「普通では絶対見ることの出来ない施設のバックヤードの見学を楽しみにして参加しました。ロケット・人工衛星エンジンの製作に絞って研究している会社があることも知らずにいました。世界の英知を集めた製品として、北海道から羽ばたいていけるのは頼もしい限りです」
「いつも大変興味深い、楽しいワクワクする企画立案、本当にありがとうございます。テレビニュースのロケットのこと、身近に体験でき、すごく身近なものになりました。内製を目指し、また日本人ファースト、外国人排斥という昨今。就労者の約の半分が外国人...少子化が進むこの日本で、希望持てる経営者の話を聴いた。下請け、加工依頼は道内企業を優先するという方針。人口減の学校閉鎖の跡の利用。素晴らしい発想者で、将来本当に楽しみです」
「よく道内で企業を興してくれましたね。資金集めがご苦労でしょうね。道内には大企業や優秀なメーカーさんも少なく、今後大変なご苦労をなさることと思われますが、ぜひ頑張って成功なさることをお祈りしています。『頑張れレタラ』 世界が、いや宇宙が待っている」