いしかり市民カレッジ

トピックス

トップページ トピックス 主催講座10「水惑星の起源を探る火星衛星探査計画MMX」


トピックス

主催講座10「水惑星の起源を探る火星衛星探査計画MMX」

2022/08/23

 8月16日(火)、主催講座10「水惑星の起源を探る火星衛星探査計画MMX」を石狩市花川北コミュニティセンターで開催しました。講師は、北海道大学大学院理学部地球惑星科学科教授の倉本圭さん、受講者は26名でした。
 倉本さんは自己紹介の後MMXに関わるようになった経緯について話されました。
「私は1966年(丙午)室蘭で生まれました。誰もそう呼んでくれませんが、名前は圭と書いてきよしと読みます。同世代の受験者数が少ないなど丙午生まれの恩恵を受けた面もあります。父親の仕事の関係で道内各地を転々としましたが浦河に居た中学生の時化石を見つけて夢中になりそれが科学に関わる仕事をする原点となりました。東大卒業後縁があって25年程前に北大に勤めることになりました。MMXについては、15年程前りゅうぐうの次は何を目指したらよいかと云う議論が起き、私が学会長をしていた惑星科学会が火星衛星の探査を答申したところそれが採用されて、MMXに関わることになりました」
22,10,1.JPG
以下は、お話の概要です。
1.MMX(火星衛星探査計画)とは
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)による火星衛星探査計画。「Martian Moons eXploration」 の略。これまでの日本の月惑星探査ノウハウを活かして、火星衛星の起源や火星圏の進化の過程を明らかにし、太陽系の惑星形成の謎を解明する手がかりを得ることを目的としている。
2.なぜ火星とその月を目指すのか?
・大気と水を有し、過去に温暖湿潤な気候をもっていた
・多数のクレーターに覆われている
・多数の火山噴火の痕跡がある
 火星は、大気と水圏の形成や初期進化の記録が豊富であり、これらを読み解くことで水惑星の形成過程や形成条件に迫ることができる。実際に現在世界の多くの探査機が火星を探査している。しかし、誕生期については、火星表面の調査のみでは不十分で、惑星誕生の過程を記録している月(衛星)を併せて調べることが解明に役立つ。
3.火星
火星は冷たい(平均-60℃で南極並み)乾燥した惑星。
4.火星の月 フォボスとダイモス
1)質量と密度
フォボス:最大長27㎞、質量1.07×1016㎏、密度1.87g/
ダイモス:最大長15㎞、質量1.48×1015㎏、密度1.47g/㎝
・小質量である。
 質量が小さいということは、内部の活動はほとんどないので生まれた時の状態が保たれていると考えられる。
・低密度(通常岩石の密度は3g/㎝)である。
 中にすき間があるか、氷が詰まっているのかもしれない。氷が詰まっているとすると、太陽系の初期の段階で出来た氷が閉じ込められているはずで、火星や月にH2Oがどうやって持ち込まれたかを知るための重要な手掛かりとなる。
22,10,2.png
2)フォボスとダイモスの起源(現在2説がある)
・色からの判断
画像:背景が火星で手前がフォボス(黒色、りゅうぐうに似る)
22,10,3.png
 反射スペクトル(物質表面に色々な波長の光をあてた時の反射率を波長の関数として表わしたもの)がD,T型小惑星(木製の軌道上にある小惑星)と類似している。
 フォボスやダイモスが火星とは遠く離れた木星軌道辺にある小惑星と似ていることは、太陽系の外側から内側に紛れ込んだ小惑星が火星の重力に捕らえられたと考えられる⇒捕獲起源説
フォボスやダイモスは、原始火星に揮発性物質を供給した微惑星の生き残りである、と考えられる。
・軌道からの判断
 ほぼ赤道円軌道であり、そのことは捕獲起源説では説明できず、巨大衝突起源を示唆している⇒巨大衝突起源説⇒巨大な天体衝突によって破片が赤道面に飛び散り、その破片が円盤状となったものが集まって衛星となった。この説が正しいなら、衝突の際火星の物質も混じり合うので、衛星の物質を調べることで火星の事も分かる。
 惑星と衛星の関係では、惑星の自転周期と衛星の公転周期を比べて衛星の公転周期が短い場合は衛星の軌道が落ち込み、長い場合は遠ざかる。火星の自転は24時間、フォボスが火星を1周する時間は7時間、ダイモスは30時間であるので、フォボスは火星に近づき、ダイモスは遠ざかっている。
 フォボスは今のスピードで落ち続けると4,000万年後には火星に落ち込んでしまうので、調査を急がなくてはならない、ぐずぐずしていると無くなってしまう(!!)。
火星の地形図:左が南半球、右が北半球
22,10,4.png
 北半球には最大のボレアリス盆地、南半球にはヘラス盆地があり、これが衝突の痕かもしれない。
5.火星は水惑星だった
1)バレーネットワーク(水路のような地形)
左が地球の枯れ川、右が火星の地形でよく似ている。
22,10,5.png
2)地形から推定される古海岸線
22,10,6.png
 これ等の地形から、過去に海があった事は間違いないと思われる。
3)過去の水を示す堆積岩と蒸発岩
22,10,7.png
以上のことから火星は水惑星だったと考えられる。
6.火星は水と有機物が外惑星系から内惑星系へ運ばれる際の関門
・火星は内惑星系の外縁に位置する
・惑星材料物質とそれらが生命生存可能惑星へ組み立てられる全過程の記録を保持している
 従って、火星は太陽系の惑星形成の謎を解明する手がかりを得るための重要な調査対象である。
7.MMX計画について
1)科学目的
①火星衛星の起源を明らかにする
②水惑星の誕生に至る、初期太陽系過程を解明する
・捕獲起源の場合:惑星材料物質を入手⇒初期太陽系での物質進化と輸送過程を明らかにする
・巨大衝突起源の場合:衝突体と初期火星物質の混合物を入手⇒衝突体の由来、衝突過程、火星の初期状態を明らかにする
③火星と火星圏の進化を解明する
・フォボス・ダイモス表層の変質過程:クレータ―形成、微小隕石・高エネルギー粒子の影響
・火星表層環境の変遷:フォボス表層に混在する火星由来の若い物質の分析
・火星大気の動態:赤道軌道を活かした火星大気の運動と水輸送を観測、表層リザーバー間の水交換、宇宙空間への逸失過程
2)なぜサンプルリターンが必要か?
①火星衛星の起源を確定的に知ることができる
・鉱物組織・微量元素・同位体組成・年代決定
②火星クレーターからの放出物質が入手できる可能性がある
フォボスをサンプル採取の主ターゲットとして検討を進めている理由
・探査機の運動能力の制限・ダイモスよりも既存の地表データが豊富・分光特性がが似ているフォボストダイモスは同じ起源をもつ可能性が高い
3)探査機について
◇探査機推進方法・構成
・高推力化学推進
・3分割モジュール構成
 推進モジュール、探査モジュール、帰還モジュールの3分割構成になっており、役割を終えると切り離されることになっている。
22,10,8.png
上記のような改良により、5年の往還が可能となった。
4)スケジュール
・2024年打ち上げ予定。
・軌道遷移期間(片道)は、往路、復路とも1年弱。全ミッション期間は、5年。
5)科学観測装置と役割
22,10,9.png
6)調査方法やねらい
①フォボスの現時点での最高解像度画像
画像は、3.7m/pxだがMMXでは10cm/pxの鮮明な画像が得られる。
22,10,10.png
②擬衛星軌道からのフォボス観測
 フォボスを観測する際、フォボスの軌道からすこしずらした軌道(擬衛星軌道)から観測する。
③元素比観測による起源推定
④露出基盤の分光撮像
⑤フォボスの内部の氷の有無
 密度分布の違いやH2Oが漏れ出しているかどうかなどの調査で捕獲起源説を確かめられる。
⑥フォボス・ダイモスの地質調査
・クレーター生成史
※火星は、クレーター密度に基いて地質年代が区分されている
・表層更新
・地質活動
・宇宙風化作用
7)MMXの観測計画
2025年8月~2028年9月の予定。
 サンプル採取は、地球との交信時間が最短となる中間次期に行う予定。また精密観測は、探査機が火星やフォボスの陰に入らない時期を選んで行う。
8)火星の砂嵐(ダストストーム)
 これは気象現象ではなく火星が水を失くした過程ではないかと云われており、精密な観測が必要。
9)サンプリング
22,10,11.png
複数地点で2cm以深から10g(300μm粒子で数万粒相当)
・外来粒子に偏った採取を避ける
・色が違う領域がある事を考慮
・宇宙風化の影響が少ない試料を得る
 フォボスの昼間、3時間半の内に降下、着地、定位、その場観測、採取、離陸、軌道復帰を完了させなければならない。
 地球との交信時間往復10分。コアー打ち込みの指令は、地球から行う。
10)カプセル回収、分析
カプセル回収(オーストラリア)
キュレーション(宇宙研):初期分析
詳細分析(各機関):酸素やクロムの同位体を利用して試料を分析する。
※同位体:原子番号が等しく、質量数が異なる原子。すなわち原子核の陽子数が同じで、中性子数が異なる原子。元素周期表では同じ位置を占める。
8.火星衛星探査計画の火星生命探査への意義
 NASAは、2030年までに火星本体から資料を持ち帰る計画だが、予定が延びて2032年になると云われている。一方MMXでは、資料を持ち帰るのが2029年。フォボスの試料の中の0.1%は火星表面から放出した物質が混じっていると考えられるので、3万粒持ち帰れば少なく見積もっても10粒の火星由来の物質が手に入る。この10粒の中に生物の遺骸が含まれている可能性がある。MMX計画は衛星の試料を持ち帰るだけでなく火星本体の試料も持ち帰り、そこから火星生命探査に迫ることができる。
◇まとめ
・火星の二つの月は、「大気と水のある地球型惑星」の材料物質と形成過程の情報を記録している
・MMXは、火星の月を詳しく観測し、フォボスからサンプルリターンを行う
・観測とサンプル分析から、火星の月の起源論に決着をつける
・初期太陽系における外惑星系から内惑星系への揮発性物質輸送、水惑星の形成過程と大気•表層進化を解明する
・火星生命の痕跡発見に挑戦する
 お話しは以上です。やや難しい部分もありましたが丁寧に説明して頂いてMMX計画のことを理解することが出来ました。7年後に、世界に先駆けて火星の生命遺骸を発見!と云うニュースが駆け巡ることを祈りましょう!
22,10,12.JPG
 最後に受講者から寄せられたコメントをご紹介します。
「自分がもう少し若ければ惑星探査機の制作に携わってみたかった」
「日頃、宇宙・衛星の話は身近に感じることはありませんでしたが(時折のニュースで見る程度)今まさに研究している人の話は希望を感じるものでした。なぜ火星とその月を目指すのか?という問いから、火星生命の存在を発見する―に臨む様子に元気を頂く思いです。ありがとうございました」
「全く何も知らない火星の状況を知ることが出来てありありがとうございます。巨大な太陽系の一部の一番知りたい火星のこと大変良かったと思います」
「水惑星を探るためのMMX!遠い宇宙と思っていましたが、身近に感じることができる貴重な時間でした。心は宇宙空間に飛んでいます」
「火星・水惑星についての知識情報が今まで少なく、今回の学習で関心が増しました。かつて日高支庁勤務をしており『札幌浦河会』会員です。浦河の思い出が懐かしいです。滝川江陵中学の時、1年次『気象部』で、2年次『化学部』に所属していました。自治省消防庁で『防災対策・救急医療』を担当し、『気象部』の学習が役に立っています」
「遠い宇宙の話が急に身近に感じられる楽しい講義でした。晴れた日の夜、星を眺めてみます。ありがとうございました」
「宇宙科学に全く疎い自分ですが、宇宙のお話聞くのが大好き。とっても夢があっていつも感動で聞いております。またの機会、楽しみにしております。本当に難しいけど楽しいです」
「『地球の水の由来が解明されるかも』という夢のあるお話は楽しかったです。水だけでなく生命 分野での由来が解明できると素晴らしいですね」



















CONTENTS コンテンツ

カレッジ生募集中

ボランティアスタッフ募集中 詳細はこちらから

いしかり市民カレッジ事務局

〒061-3217
石狩市花川北7条1丁目26
石狩市民図書館内社会教育課
Tel/Fax
0133-74-2249
E-mail
manabee@city.ishikari.hokkaido.jp

ページの先頭へ

ご意見・お問い合わせプライバシーポリシーサイトマップ